飛行中にエンジンが止まったら墜落するか?

たまに聞かれるこの質問。わからなくもないですね。答えは…

 

 

「すぐに墜落することはありません」

 

 

まず、飛行機の浮く力である「揚力」について…

揚力=1/2×空気密度×(速度=風速)²×翼面積×揚力係数

 

空気密度は大気状態によって定まってしまうし、翼面積というのは主翼の平面形の占める面積だから、この2つは操縦士によって変えることはできません。

 

揚力係数は、説明し始めると長くなってしまうので、ここでは「主翼の迎え角が増すに従って揚力が増える」と軽く考えて下さい。これは操縦士が航空機の姿勢を制御することでコントロールできる部分です。基本的に0とはならない部分です。

 

速度も、エンジンが故障したからと言って直ちに0となるわけではありません。エンジンが止まると推進力がなくなるのですが、前進しながらも重力で降下していきます。飛行姿勢をコントロールすることで一定の速度が得られます。(滑空速度というのがあって、操縦士はこの速度になるように飛行姿勢をコントロールします)。ここも基本的には0とならない部分です。

 

 

このために「揚力」はなくならないので、すぐに墜落することはありません。ただし、推進力がないのでいつまでも浮いていることはできないから、重力で降下しながらいずれ地上に舞い戻ってくることになります。なので、滑空している間に最寄りの空港に着陸するか、不時着しなければいけません。

 

 

こんなことはあり得ないけど、飛行中に揚力関係で墜落する可能性があるとすれば、主翼が折れてなくなった、ということくらいなのでしょうね。エンジンが止まったくらいでは墜落しませんよ。

 

 

僕もセスナ機の操縦で「engine failure」のトレーニングを何度も受けています。これ自体は全く怖くないし、慣れれば適切に対応できます。ただ、操縦士が恐れるのは不時着した後です。最寄りの空港に緊急着陸できたらそれが一番いいけど、緊急事態時にすぐ近くに空港があるとは限らないし、ましてや1個のエンジンしかないセスナ機では到達できる距離もそう長くはありません。そして、日本の場合はものすごくややこしい事後処理があるし、特に空港外に不時着したら警察が来るし(犯罪者じゃないのにね。でも来るってことはそういうことで、事故として責任を追及して罰しようと考えているわけですね)、マスコミの格好の餌食にもなってしまいます。アメリカでは、もちろん事故調査のための事情聴取はあるけど、事故の再発防止に重点が置かれていて日本のように懲罰を与えようとするものではないし、日本のように大騒ぎすることもありません。僕の知人がアメリカで着陸時に機体の不具合で事故を起こしたけど、駆け付けた現地空港当局は「ケガがなくてよかった」と皆に笑われた程度だったとか。ここでも、アメリカと日本の違いを感じます。

 

 

ちなみに、空気密度は「気温が高くなれば小さくなり、低くなれば大きく」なります。今日も暑かったですよね。ということは、空気密度はスカスカな状態なので、ここの数値は小さくなっています。エンジンパフォーマンスも同じように落ちます。いつもの揚力がいつものように得られないから、離陸する航空機は離陸距離が延びてしまうんですね。夏に成田空港を飛び立つA380を見たことはありますか? 大きくて重たいから、これでもか、ってくらいぎりぎりまで離陸滑走して、重たそうに少しずづ上昇していきますよ(笑)。暑くて困るのは人間だけではなくて航空機もなんですね。

 

 

長くなってしまったので、今日はここまで。