BOAC FLT911 ④

今回は、BOAC911便事故の「飛行ルート」について

 

 

飛行計画では「大島経由の航空路JG6」だった

飛行計画では、計器飛行方式(IFR)で大島を経て航空路JG6を経由、飛行高度31,000ftで香港に向かうことになっていました。事故機は13時42分に羽田の管制機関と交信を開始しています。ところが、エンジン始動後、機長は管制に、富士~レベル(通常24,000ft以上の水平飛行を指す)~串本を経由する有視界上昇を要求したのです。

 

 

なぜ富士に向かったのか

実はこの時、BOAC911便の前に先行出発機がいました。911便が予定している飛行経路に大島まで先行する航空機がいたのです。この機は911便より6分早く羽田を離陸、館山経由大島まで911便の飛行計画と全く同じ経路を飛行することになっていました。この先行機はフォッカーF27という機種で、911便のボーイング707と比べて速度が遅い機体でした。

911便の乗員が全員死亡しているために推定となってしまいますが、この速度の遅い先行機の存在が機長に突然のルート変更を決断させた可能性があります。では、なぜ変更後のルートが富士だったのか? 操縦士は「ルートを変更するなら…乗客に富士山をより良く見せてあげよう」と考えたのかもしれません。

 

 

推定された飛行経路は

羽田の滑走路33Lを離陸した事故機は、鮫洲上空を通過して右旋回、上昇しながら横浜・大船間の方向に向かっています。その後さらに右旋回して御殿場方向へ。御殿場市付近上空では高度4,900m、速度320~370ノット、磁針路約298度(真西は270度なのでやや北東の方向)と推定されました。そしてこの直後に乗客の8ミリカメラのフィルムが2コマ跳ぶことになります。かなり富士山の中心に近づくようなルートだったようです。

 

 

事故報告書にはどのように書かれているか

「富士経由の有視界上昇は、もし、それが航空機の進行を促進するために行われたものであるならば、機長の裁量に属することである。ただ、この場合における有視界上昇を要求した理由については、旅客に富士山をよりよく見せようとすることと関連があったかもしれないが、これを明らかにすることはできなかった」と書かれているそうです。乗員が全員死亡しているので、当然明らかにすることはできません。

 

 

僕は小型機専門なのでエアラインのことはわかりません。それに当時と今とでは事情も全く異なります。なのでこれはあくまで僕個人の見解ですが、速度の遅い航空機が自分の前方にいたら、ルートを変更しようと考えるのは操縦士として自然だと思います。僕もセスナ機で飛行中、着陸のファイナルアプローチ上でグライダー(滑空機のこと、エンジンがない機体で遅かった)が先行機として入ってきたことがありました。速度差はそんなに大きくないものの、差があるのでどんどん近づいていきます。あの手この手で間隔を保つのに苦労したことがあります。これが離陸及び上昇・巡航の場面なら、僕もルート変更を考えます。速度の遅い先行機に速度を合わせて飛行し続ける必要はないし、わざわざ同じルートを飛行して先行機へ近づいていく必要もないからです。それに、他のトラフィックに近づいていくのはとても危険です。航空機はとにかく他機との間隔を保つことが大切、とにかく近づかないことに尽きるのです。

 

 

ここはセンシティブな問題になりますが、旅客便の操縦士が乗客に富士山を見せようと考えるのはあり得る話だと思います。僕の記憶が間違いなければ、過去に羽田では東京タワー側に大回り旋回する航空機がいたようです。多分、東京タワーを見せようと思ったのでしょう。ただ、操縦士は「危険だ」と認識していることは絶対にやりません。この911便事故では、操縦士は山岳波や乱気流に関する知識を持っていました。なので、危険を承知の上であのルートを飛行したとはとても思えません。真相はわかりませんが、乗客に富士山を近くで見せてあげたい、という思いはあったのかもしれません。

 

 

つづく